住職エッセイ寄稿

「ぴっぱら(全国青少年教化協議会発刊)」2016年1-2月号に寄稿しました。

「今日あるはありがたし」

新年早々に親馬鹿話にお付き合い願いたいと思います。私には50代半ばで授かった長女、真央3歳がいます。もちろん授かったのは妻ですが…。おしゃべり好きで思いがけない事を言ったりやったり、おもしろいものです。

私は学生時代より空手道に励んでいます。今なお現役生活に未練あり怪我が耐えません。

とうとう先日、両膝の前十字靭帯を断裂しました。手術の後、ギブスの足を真央は擦りながら言います。「いたくなれー、いたくなれー」と。『真央ちゃん痛くなれー、痛くなれーじゃなく痛くなくなれーだよ』と言うと、今度は「いなくなれー、いなくなれー」と言うではありませんか。

『真央ちゃん、パパいなくなったらゴハン困るでしょー』『じゃあ、真央ちゃん痛いの痛いの飛んでけー』で教えると、「いたいの、いたいの、とんでけー」と。この言葉が小さい子でも言いやすいメッセージと知りました。

またある日、妻と口論になりました。それも真央の目の前です。さすがに私が手を挙げることは御法度です。口のたつ妻の連射口撃に、私は声を大きくするのが精一杯、結局お互いに口も利かない一日となりました。その日の晩、いつものように真央をお風呂に入れます。

娘の頭を洗っていると真央が一言、「真央ちゃんはぁー、パパの笑っているお顔が一番好きなんだぁ……」と。これには堪えました。風呂の様子を妻に話し、この言葉を戒めとしています。

ひらがなやカタカナも、アニメや幼稚園に入園して覚え始めました。駅の階段で突然「のぼりろー」「おりろー」と言い出したので、何を言っているのかと指差す先を見ますと「のぼり口」「おり口」でした。

幼稚園の送迎の際にも、気を付けなければならないことがあります。お寺の幼稚園を希望した我が家は、片道、自転車で4ヶ所の上り下りを移動しています。東京都はいえ、「二山は越えていく感じです。どうしても時間に追われ信号を突っ切ってしまうと、パパ赤信号は待てだよ」と真央。そう「止まれ」ではなく、「待てだよ」には、誰しも同じ一日なのに何を齷齪(あくせく)と、という意味が込められているようにも聞こえます。これで事故に遭ってしまってはと反省しきりでした。

幼稚園の防犯指導では、「イカのおすし」の言葉を覚えました。①知らない人に付いて「イカ」ない②さそわれても車に「の」らない③「お」おきな声を出す④変な人から「す」ぐにに逃げる⑤どんなことがあったか周囲の大人に「し」らせる-と。

お迎えから寺に戻り自転車の後ろの席から下ろすと「真央ちゃんはすぐににげる-!」と駆け出します。

「コラー!パパは変な人じゃないぞー」

そんな私どもにも2ヶ月前に長男が生まれました。亡くなった二人目はお浄土で亡き母に抱いてもらい三人目の第二子です。この子が幼稚園に行くより私の還暦が早いのです。”正月は冥土の旅の一里塚、めでたくもありめでたくもなし”

益々この世に未練が生まれました。 合掌